お内衣の袖
女官に対する思いやり深いご様子を偲ぶ逸話が残されています。
皇后が御袿(うちき)の下に召されるお内衣(小袖)は、白羽二重で一尺一寸五分くらいありました。そのままではお袖が長いため、お袖口を折りたたみ、縫い込んだものをお召しになるのですが、冬になるとこれを2枚ご着用になり、自然と袖が重くなります。側近で奉仕していた下田歌子はある時先輩の女官に提案しました。
「どうも皇后さまのお召しはお縫込みが多い。普段から肩がお凝りになりがちなのに、あのようなお着物を召されるのはお身体によくないじゃありませんか。お許しを得て縫い込みを少なくするようにしたらいかがでしょう」
女官もその通りだと思い、早速ご許可を請うたところ、皇后は次のようにおっしゃいました。
「あれはあのままにしておくがよい。しかしせっかく親切に申してくれたのだから、軽くなるように袖の先に綿を入れないようにしてくれたらよろしかろうと思う。自分は少しの間だけ着て、女官たちに下げることになる。お下がりは袖の長いものでないと、衣服として再び役に立たぬと聞いている。羽二重は地質の強いものであるから、縫込みを多くしておけば順々に下げても、そのまま衣服として用いられるであろうから、やはり小袖は元のように長く裁って縫い込んでおいてもらいたい」
皇后はこのように、ご自分が着用されたお召し物が女官たちに下げられた後、末永く使えるようにとのご配慮から、不便を厭(いと)わず袖の長い内衣を縫い込んでご使用になっていたのでした。
【御袿(明治神宮所蔵)】