読書にもご倹約の大御心
夜ひかる玉も何せむみをてらす
書(ふみ)こそ人のたからなりけれ
皇后(昭憲皇太后)は源氏物語や伊勢物語・枕草子・徒然草などをこよなく愛読されました。ご愛用の書籍はたいてい和紙綴りのもので、中には版本ではなく、祐筆(ゆうひつ=そば近くで書き物を代筆する人)が筆写し、美しく表装して差し上げたものもありました。何度もご覧になるうちに、紙や綴りの糸が手擦れたり、表紙が破れたりしてきたものがありましたが、側近が新しいものとお取り替えをおすすめしても、
「古く手馴れしたものは新しいものよりもかえって親しみがあるものです。取りかえるには及びません」
と、お聞き入れになりませんでした。
女官はこのようなご倹素ぶりに恐縮するばかりでしたが、ある時皇后から綴りの糸のご修復を命じられた時、表紙もそっと新しいものに取り替えて差し出すと、
「表紙が新しくなって、心地よいものです」
とおっしゃり、ご満足の様子だったといいます。
新しい本をいくらでもお取り揃えできるお立場にありながら、一冊一冊を大事にご使用になっていた慎み深いご生活ぶりがうかがわれます。
【御愛読された書籍『栄花物語』】(明治神宮所蔵)