皇后のご日常
女官を勤めていた山川三千子の著書『女官』をもとに、昭憲皇太后のご日常について紹介します。
朝は7時半に、内侍(ないじ)が「ご機嫌よう」とご挨拶申し上げると、「おひる」つまりお目覚めになります。ついでお化粧着のお掻取(かいど)りを着用されて、命婦(みょうぶ)の運んだお湯でご洗顔、といっても大きなたらいで殆ど上半身をお洗いになります。その時お手拭をしぼったり、お肩にかかったお湯を拭いて差し上げたり、お化粧の方のお手伝いは、その朝出勤した内侍が奉仕し、またおぐしを上げたり、お寝具を干したりする整理は、宿直の二人がお世話申し上げます。
お化粧がお済みになると、その場で朝の食事を召し上がります。天皇と同様に、一の膳・二の膳が用意されますが、召し上がるのはパンと牛乳入りのコーヒーだけです。食事後はお腰湯(下半身のお風呂で、命婦がお世話する)を済まされて、洋服にお召し替えの後、御所(天皇の御座所)にお出ましになります。
靴下を履かれる時、おそばにいる内侍の肩に軽く手をおかけになるのですが、山川が奉仕していたある時、
「三千子は細くて折れそう」
とお笑いになるので、
「皇后さまのお力などでは絶対に折れません」
と申し上げると、
「これでも?」
と力を入れてお押さえになったりというご冗談もなさったようです。
御所に天皇がお帰りになってからは、両陛下お揃いでいらっしゃいますが、時には御座文庫の前にお座りになって新聞や献本をご覧になったり、お歌をお詠みになる時もありました。お歌はご前奉書といって、中奉書より少し形の小さい物で、それを二つ折にしてお書きになります。皇后には官報の他、9種の新聞が届けられるようになっていましたが、熱心にお読みになっておられたようです。
【御座文匣】(明治神宮所蔵)