ザボンの菓子器

 

 明治天皇はいらなくなったものをご自分で細工されて、日用品や工芸品をお作りになることがお上手でした。

 皇居が炎上して赤坂の仮皇居にお住まいの頃、佐佐木高行が郷里の高知からザボンを献上したところ、天皇はそれをお手ずから小刀(こがたな)で中身を取り出して皮だけにし、その中に藁(わら)の灰をつめて縁側につるして乾かされました。

 そして漆で皮の表面にいろいろな蒔絵を描かれ、みごとな菓子器やたばこ入れを作り上げられました。

 後年になってカボチャ細工に挑戦なさいましたが、宮内大臣田中光顕(みつあき)に別の工芸品を賜ったときに、

 

「カボチャの細工はなかなか難しいが、いま頑張って研究している」

 

とおっしゃったそうです。

 さて、その失敗談。カボチャのいくつかをくり抜いて例のごとく藁の灰を詰め、御座所の前の縁側につるしておりましたが、あいにく雨降り続きで乾燥するどころかみんな腐ってしまいました。天皇が縁側に出て空模様を心配しておりますと、カボチャの一つが陛下の所に落ちてきて、服を汚してしまわれるという思わぬ出来事がありました。この時には天皇も大声でお笑いになったそうです。

 

 

【ザボン製菓子器】

ザボンの菓子器