十二徳の御歌
上皇陛下が天皇であられた平成6年6月にアメリカ合衆国を訪問された際、大統領主催の歓迎式典で「貴国に対し、わが国が持った関心の深さは、ベンジャミン・フランクリンの十二徳目を題として、私の曾祖父・明治天皇の皇后、昭憲皇太后によって和歌が詠まれていることからもうかがえます」という印象深いお言葉を残されました。
明治9年、元田永孚(ながざね)は講義のなかで、アメリカ人のベンジャミン・フランクリンが徳を研(みが)き品性を高めるため十二徳を壁に書き、日常自戒に努めていたことをご説明しました。すると皇后はことのほか感銘を受けられ、十二の徳目を一首ずつお詠みになって元田に賜りました。それがいつしか民間に伝わり、女学校の教科書などに載せられました。明治44年文部省はこれを国定教科書に掲げて児童の徳育に役立てたいと考え、皇后に許可をお願い申し上げました。皇后はこれをご嘉納になり、若干字句の訂正を施されて文部省に下賜されました。それがつぎに掲げる十二徳のお歌です。
節制
花の春もみぢの秋のさかづきも
ほどほどにこそくままほしけれ
清潔
しろたへの衣のちりは拂へども
うきは心のくもりなりけり
勤労
みがかずば玉の光はいでざらむ
人のこころもかくこそあるらし
沈黙
すぎたるは及ばざりけりかりそめの
言葉もあだにちらさざらなむ
確志
人ごころかからましかば白玉の
またまは火にもやかれざりけり
誠実
とりどりにつくるかざしの花もあれど
にほふこころのうるはしきかな
温和
みだるべきをりをばおきて花櫻
まづゑむほどをならひてしがな
謙虚
高山のかげをうつしてゆく水の
低きにつくを心ともがな
順序
おくふかき道もきはめむものごとの
本末をだにたがへざりせば
節倹
呉竹のほどよきふしをたがへずば
末葉の露もみだれざらまし
寧静
いかさまに身はくだくともむらぎもの
心はゆたにあるべかりけり
公義
國民をすくはむ道も近きより
おし及ぼさむ遠きさかひに
【元田永孚】
出典:国立国会図書館「近代日本人の肖像」 (https://www.ndl.go.jp/portrait/)