神武・後醍醐帝の御陵をご参拝
明治23年4月21日、皇后は歴代の皇后としてはじめて、奈良県橿原の神武天皇陵と、吉野の後醍醐天皇陵をご参拝になりました。
このうち後醍醐天皇の鎮まる塔尾陵(とうのおのみささぎ)は、山深いところにあり、とくにこの日は天候が悪く雨がいまにも降りだす気配で、側近の香川大夫は心配しましたが、皇后は、
「このたびは花見ではなくて、この御陵に参拝するために参ったのであるから」
とおっしゃり、予定通りご参拝を済まされました。
吉野山みささぎ近くなりぬらむ
ちりくる花もうちしめりたる
というお歌は、御陵に向かう途上でお詠みになったものといわれています。
山道は思いのほかに険しく、車馬での外出を常とする宮中の人々には、足をとどめて息を継ぐばかりでしたが、皇后はかよわいお足取りながら、無事に山道をお登りになり、御陵のご参拝を果たされたのでした。
ご参拝に際し、吉野の村民は皇后の御心を慰め申し上げようと、吉野川の筏(いかだ)流しを催してご覧に供しました。皇后はことのほかお喜びになり、村民の志をご嘉納になったということです。
また如意輪堂にも行啓され、後醍醐帝の御座所であった吉水院や、護良(もりよし)親王が奮戦された跡である蔵王堂、村上義光の墓などを訪れて往事を追想され、「昔の帝のことを想うと、忍ぶに余りある」
とおっしゃいました。
22日には橿原神宮にご参拝になり、特別の思召しをもって同神宮に金100円を賜りました。
【塔尾陵(竹崎恵子氏撮影)】