【平成28年】
春号
『代々木』は、明治神宮・明治神宮崇敬会が発行する季刊誌です。
我が国の美しい伝統精神を未来に伝えるため、昭和35年より刊行をつづけております。
明治神宮崇敬会の皆様にお送りしております。
表紙の写真について
長野県南木曽町の妻籠宿(つまごじゅく)
室町時代中期に築造の妻籠城址から、重要伝統的建造物群保存地区に指定されている妻籠宿を望む風景。昭和43年(1968)から保存事業が進められてきた妻籠宿は、江戸時代の町並を体験できる全国有数の観光名所である。明治13年(1880)6月28日、中山道を巡幸中の明治天皇は、当地を経て妻籠宿へ向かわれた。
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明治神宮鎮座百年大祭 御祭神の御霊と代々木の杜をシンボルに
グラフィックデザイナー 原研哉氏
日本精神に重要な、空(うつ)なるもの
御祭神の御霊をどう表現するかはとてもデリケートなことなんですけれども、神社の真ん中にある社の中枢は、ある意味では空っぽ、エンプティなものだと思います。空っぽであるということが、日本のコミュニケーションの中では重要で、その「空(うつ)」なるものの中に自分の思いを投げ込む。その中に御霊の存在を想像する。いらっしゃるかもしれない、と。つまり、見えないものとコミュニケーションしていくための空なるものが日本の精神にとってとても大事だったのだと思います。
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原 研哉(はら・けんや)
昭和33年生まれ。グラフィックデザイナー。日本デザインセンター代表。武蔵野美術大学教授。無印良品のアートディレクションや愛知万博ポスターなど、日本の伝統を未来資源として世界の文脈につないでいく仕事を行っている。
エルトゥールル号事件に始まる 日本とトルコとの絆 史実とまごころを伝えたい
田嶋勝正(和歌山県 串本町長)
田嶋勝正町長の手紙がきっかけに
「明治時代の先人が行った史実とまごころを現代に、そして次代に伝えたい」――明治23年(1890)、トルコの軍艦・エルトゥールル号が和歌山県の紀伊大島・樫野埼灯台付近で遭難したことに端を発して、現代まで日本とトルコとの国際的な友好関係が続いている。海難で負傷した船員を、島民が不眠不休で救出・看護し、殉難者を手厚く弔った“まごころ”がその礎。この史実を描いた映画「海難1890」(田中光敏監督)が昨年12月に公開され、話題を呼んだ。少しでも多くの人に、先人のまごころを知ってもらいたいと発起した田嶋勝正・串本町長が、学生時代の友人である田中監督に書いた手紙がきっかけだった。
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明治神宮と私
吉村 俊之(豊島屋本店 代表取締役社長)
半導体の研究開発から家業へ
明治神宮には小さい頃から、父や祖父に連れられて参りました。祖父には元旦の歳旦祭に連れて行かれて参列いたしました。朝早くて(歳旦祭は朝7時から)、寒くて、当時はよくわかりませんでしたが、「これがうちの仕事である」と身をもって感じました。ことさら大げさに言われたことはありませんが、御神酒を納めさせていただくことは尊い仕事で、明治神宮には、曾祖父の政次郎が初代宮司の一條様にお願いし、創建時からお納めしています。それを受け継がせていただいているということはありがたいことなのだと、子供心ながらも感じておりました。
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吉村 俊之(よしむら・としゆき)
昭和34年生まれ。京都大学大学院理学研究科修士課程修了。米国スタンフォード大学大学院留学、工学博士。日立製作所中央研究所、米系経営コンサルティング会社を経て、平成13年に豊島屋本店に入社。18年に代表取締役社長に就任。
代々木の杜のはなし
岩槻 邦男(植物学者)
『万葉集』に見る日本人の性格
例えば、日本の古典『万葉集』は、民俗学的に言っても植生学的に言っても、こんな貴重な資料は世界のどこにもないものです。/p>
万葉集には、自然を素直に詠んだ歌が圧倒的に多い。世界には、貴重な古典はたくさんありますが、野生の植物についてはほとんど書かれていない。古代ギリシャの『イーリアス』『オデッセイア』を見ても、食事などに使う植物の名が時々出てくる程度です。しかも諸外国の古典は、軍人とか詩人など特殊な人が書いている。でも万葉集は「詠み人知らず」とか「防人の歌」とか、名前も記録に残らないような人から天皇陛下まで。さらに都(みやこ)だけでなく日本各地の人が詠んでいます。日本人が自然をどう思っていたのか、8世紀頃、日本列島の植物がどう人と関わっていたかということが読み取れるのです。
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岩槻 邦男(いわつき・くにお)
昭和9年、兵庫県出身。東京大学名誉教授。京都大学大学院理学研究科修了、理学博士。京都大学教授、東京大学付属植物園長、兵庫県立人と自然の博物館館長などを歴任。日本学士院エジンバラ公賞、R.アラートン賞ら受賞。文化功労者。『植物からの警告』(NHKブックス)、『生命系―生物多様性の新しい考え』(岩波書店)、『桜がなくなる日』(平凡社新書)など著書多数。