【平成22年】
夏号
『代々木』は、明治神宮・明治神宮崇敬会が発行する季刊誌です。
我が国の美しい伝統精神を未来に伝えるため、昭和35年より刊行をつづけております。
明治神宮崇敬会の皆様にお送りしております。
水はいのち 「水の世紀」に湧水を大切にする心を
高村 弘毅
森と一体になってこそ
明治神宮の清正井はいま、訪れる人が多いそうですが、訪れた方々が皆喜んで、清々しい顔で帰るというのは、よくわかりますね。
明治神宮の鎮座地は、礫層ではなく、ローム層です。ローム層は水が浸透しやすいけれども、水もちがいい。清正井の水温が年間を通じて十五~十六度というのは、森があるからです。この水温は十メートルくらいの深さくらいの地下水温に相当し、実際の清正井の浅さからするとすばらしい水温です。土の代わりに深い森があるから、太陽熱変化の影響が少なく約十五度前後と安定した地下水温を保っているんです。ここに清正井の特徴があり、貴重な存在でありますね。
森と一体となってこその、清正井です。
※記事抜粋です。『代々木』をお読みになりたい方は、崇敬会にご入会下さい
高村 弘毅(たかむら・ひろき)
昭和12年、青森県生まれ。立正大学大学院文学研究科地理学専攻博士課程単位取得満期退学(文学博士)。同大学文学部教授・同学生部長・同学部長、地球環境科学部教授・学部長を経て平成16年から今年3月まで学長を務めた。日本地下水学会会長、全国地下水利用対策団体連合会特別顧問、東京地学協会理事、東京の名湧水選定委員会座長、市街地・土壌汚染対策委員長など歴任。著書に『名水を科学する』『新 名水を科学する』『タクリマカン沙漠の自然環境と風俗』(英文)等。日本地下水学会名誉会員・日本水文化学会名誉会員・青森県文化賞・埼玉県熊谷市市政功労賞・日本国際地図学会功労賞。
十二徳の実践者 「徳器成就」
千玄室
お茶はあらゆる宗教の実践の場
私は禅僧で、寺も持っていますが、代々が明治神宮でも献茶をさせていただいておりますし、お寺でも、外国の教会でも、どんな場所でも神仏にお茶を捧げ御祈りします。ありがたいことです。お茶はあらゆる宗教の実践の場なのです。まずは神仏にお茶を捧げてから人にすすめ自分も頂戴する、その心を知ることから実践の場が始まるのです。
お茶の精神は「和敬静寂」です。「清」は単なる「清らか」ではなくて、浄化するということです。「寂」は、消えていくのではなくて、今日の腹ごしらえ、不動の信念をいいます。ですから「和する」のも、相手の心も和さないといけない。人間はみんな一緒なのですから、みんなに礼を尽くす。少しでも清らかに、少しでも清らかになるために茶室の入口には蹲(つくばい)があり、そこで清めます。
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千 玄室(せん・げんしつ)
大正12年、茶道裏千家十四代家元淡々斎宗室の長男として京都に生まれる。同志社大学法学部経済科卒業後、ハワイ大学で修学。哲学博士及び韓国中央大学校文学部博士課程修了文学博士。昭和39年、千利休居士十五代家元を継承。平成15年に家元を十六代に譲り、鵬雲斎千玄室前家元となる。勲二等旭日重光章、文化功労者、文化勲章、仏国レジオン・ドヌール勲章オフィシェなど多数授章。現在、日本国 観光親善大使、日本・国連親善大使、財団法人日本国国際連合協会会長も務める。
聖蹟を歩く―明治天皇のご事績を絵画と聖蹟でたどる― 第三回 明治五年九州・西国巡幸
打越 孝明(明治神宮国際神道文化研究所主任研究員)
明治四年(一八七一)、江戸時代以来の藩が廃されて県が置かれ(廃藩置県)、明治日本は天皇を中心とする新しい政治体制へ名実ともに移行しました。
翌五年五月、天皇は九州・西国方面への巡幸に出発されます。全国各地を巡って国民の生活を間近にご覧になることは、新しい時代を担われる青年天皇にとって必須のこととされたのでした。御年十九歳のことです。
巡幸の期間は、五月二十三日から七月十二日までの四十九日間です。明治三年熊本藩から献納された軍艦龍驤に乗艦して東京を出発し、鳥羽で下船して伊勢の神宮に親拝されました。その後、海路で大阪へ向かい、京都に滞在したのち瀬戸内海を西へ航海して下関を視察、長崎を経て、熊本、鹿児島と巡られました。帰路は、香川の丸亀および神戸を経て横浜に上陸、開業前の鉄道に乗車して東京に還幸されました。巡幸の供奉員は西郷隆盛のほか、宮内省の徳大寺実則、陸軍省の西郷従道、海軍省の川村純義らが務めています。
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打越 孝明(うちこし・たかあき)
昭和三十五年、茨城県水戸市生まれ。早大大学院に学び、同大学助手や大倉精神文化研究所専任研究員などを経て、現在明治神宮国際神道文化研究所主任研究員および早大非常勤講師を務める。共編著に『日本主義的学生思想運動資料集成・・・』や『大倉邦彦の『感想』―魂を刻んだ随想録―』、論文に「明治天皇崩御と御製 上・下」(『復刊明治聖徳記念学会紀要』25・26)などがある。