ample

【平成19年】

春号

「つつしみ」「感謝」「いつくしみ」…。

日本人のこころの美は

四季に彩られた風土から

長い年月を経て醸成された。

 

しかし、その美は

いまや失われつつある。

指先から砂の落ちるごとくに。

 

神、祖先、そして自然の恩恵を忘れることなく

「人」としての分際を心得ていた先人たち。

その叡智を、こころの美を、

いまこの手に引き継ぎたい。

 

先人たちが

真摯に磨きぬいて来た生き方を取り戻し、

こころ豊かに、

いまを正しく生きるための力としたい。

 

 

『代々木』は、明治神宮・明治神宮崇敬会が発行する季刊誌です。

我が国の美しい伝統精神を未来に伝えるため、昭和35年より刊行をつづけております。

明治神宮崇敬会の皆様にお送りしております。

 

[明治神宮崇敬会のお申込み]

インタビュー「いま、伝えたいこころの美。」
インタビュー「いま、伝えたいこころの美。」

辰巳芳子(料理家)

真の豊かさとは何か? 今伝えるべき大切なこととは? 命を健やかに育むため、様々な活動をなされている辰巳先生にお話をお伺い致しました。

 

……略……

辰巳 しかし、せっかくその心(自然への感謝の念、先人の智恵=※編者注)が伝えられても、さらに自然破壊が進んだらどうなるか。もし目の前においしそうに見えるものがあっても、本当は命を損なうものだとなると、すべてにおいて希望がなくなりますよ。「食」は「命」を育む根本だから。人間の希望を根底から奪ってしまう。だから、犯罪はもっと増えるだろうし、人心の荒廃も手のつけようがなくなると思います。

 

神道では、すべてのものに神が宿るといいますね。それは、言い換えれば、この世界に真心のこもっていない存在はないということだと思います。

 

「すべてのものには真心が宿る すべてのものはかけがえのないもの」という、神道の世界観をより多くの方に知っていただきたいと思います。それは、今やしかるべき生命科学の分野の方にも裏付けしてもらえることだと思います。自分の命を有り難い、人さまの命も有り難い、ものの命も有り難いと思って、毎日毎日、ああ幸せだと思う。そんな明るい心で生きてゆける明日をつくるために、私たちは、もっと、自分の命の来し方を確認して、この風土によって育まれてきた大切なことを伝えてゆくべきだと思います。

 

※インタビュー抜粋です。『代々木』をお読みになりたい方は、崇敬会にご入会下さい

 [崇敬会入会はこちら]

 

辰巳 芳子(たつみ・よしこ)

大正13年、東京生れ。聖心女子学院卒業。調理研究家の草分け的存在だった母・浜子の傍らで家庭料理を学ぶ一方、独自にフランス、イタリア、スペイン料理の研鑽も重ね、食と命のかかわりについて提言し続けている。NPO「良い食材を伝える会」代表理事。著書に『あなたのために いのちを支えるスープ』『いのちの食卓』『手しおにかけた私の料理』『味覚日乗』『味覚旬月』など多数。

インタビュー「年中行事のこころ」
インタビュー「年中行事のこころ」

花みこし(岐阜県美濃市)

……略……祭りの特長として、違った年齢層の人と協力してやるということがあります。おじいさん、おばあさん、弟も妹も、みんなで協力してやる。そこでいろいろな年齢層の考え方、心の動きがひとりでにわかるようになる。

ところが、いまの教育は同じ年の人を全部一斉に並べて走らせるという方法ですよ。いろいろな社会問題が起きてくる原因もそこに一つあるのかなと思っている。違った年齢の人と同じ作業をしてみてお互いに理解をもつことが、生きていく上にどうしても必要だと思う。地球上で人が生きていく上に。……略……

 

※インタビュー抜粋です。『代々木』をお読みになりたい方は、崇敬会にご入会下さい

 [崇敬会入会はこちら]

 

芳賀 日出男(はが・ひでお)

大正10年中国大連生まれ。慶應義塾大学卒業。昭和25年日本写真家協会を設立。今日まで撮影した日本および世界70余か国の祭りや民俗の写真は30万点を超える。昭和64年紫綬褒章を受章。日本写真家協会名誉会員。著書に『日本の民俗 上・下』『ヨーロッパ古層の異人たち』など多数。

随筆「おてんとう様はお見通し」
随筆「おてんとう様はお見通し」

今だって、朝の台所からお母さんがおみおつけに入れる大根を千六本に切るトントントンというリズムカルな音が目覚ましという家が残っているかもしれない。

 

でも、その音に混じってカチッカチッという「切り火」の威勢のいい拍手が響く家なんて、もう探しようがないだろう。

 

我が家にしても、切り火、拍手は父の代でおしまい。

 

切り火は、朝一番に茶の間の神棚への拝礼のときの儀式のようなものだった。

 

祖父や父は、顔を洗い、口を漱いでから神棚へ向い、榊の水を取替え、お供えの水とお灯明を捧げ、それから火打ち石を売ってお浄めをし、拍手でもって祈念する。

 

それから仏壇に行き、お水を取替え、炊き立てのご飯を供え、お灯明を点し、お線香をくゆらせてお経を一節くらい唱える。

 

こうした神仏への挨拶がすまされたのちに、家族は朝ごはんがいただけた。

 

※冒頭を抜粋。『代々木』をお読みになりたい方は、崇敬会にご入会下さい

 [崇敬会入会はこちら]

 

林 えり子(はやし・えりこ)

東京の本郷湯島生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。『愛せしこの身なれど―竹久夢二の妻他万喜』『ぶんや泣き節くどき節―岡本文弥新内一代記』『仮装・東洋のマタハリ川島芳子』『結婚百物語』『福澤諭吉を描いた絵師 川村清雄伝』『東京っ子ことば』、大衆文学研究賞を受賞した『川柳人 川上三太郎』など著書多数。