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コラム「大和心」
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 1月16日から20日に渡り、安倍首相が中東諸国を訪問した。その折、1月17日にエジプトで行った演説で、イラクやシリアの難民・避難民支援、トルコ、レバノンへの支援は、イスラム国(ISIL)がもたらす脅威を少しでも食い止めるためだと説明、「地道な人材開発、インフラ整備を含め、ISILと闘う周辺各国に、総額で2億ドル程度、支援を約束する」と述べていた。同じ趣旨のことを、ヨルダン、イスラエルでも言及している。

 1月20日。安倍首相の発言を受ける形で、イスラム国による日本人の人質2名の殺害を予告する映像が配信された。「女性や子供を殺し、イスラム教徒の家を破壊するために1億ドルを提供したので、この日本人(湯川氏)の命は1億ドル」「イスラム国の拡大をとめるために新たに1億ドルを拠出したので、この日本人(後藤氏)の命は1億ドル」「日本国民よ、イスラム国と戦うために2億ドルを拠出するという日本政府の愚かな決定の結果を見よ。72時間以内に政府に働き掛け、市民の命を救うために2億ドルを支払うという賢明な決定を促せ」と要求した。

 日本政府は、それ以前に、湯川氏と後藤氏がイスラム国に侵入し捕虜になっていたことを承知していた。

 そうした中で、本件が発生した。本記事を書いている時点(1月25日)では、湯川氏が殺害されたとの事実まで確認している。また、日本政府が、イスラム国に空爆をしている有志連合の本部が所在するヨルダン王国アンマンに現地対策本部を開設し、さらにイスラム国を刺激していることも確認した。それによって、人質交渉が複雑化した。このような戦争状況で交渉する場合は通常、中立的立場のトルコに対策窓口を置くところだ。

 イスラム国(正式名:イラクとシリアのイスラム国)は、昨年6月29日、国家樹立を宣言した。そもそも、イスラム国の人々の多くは、米軍がイラクから撤退した以降、イラクのシーア派マキリ政権から武力弾圧を受け追い詰められていた少数のスンニ派だ。彼らは、米国を中心とするシリア・アサド政権の転覆を狙った動きの中で、反アサド政権勢力の一つとして参戦しシリア内に支配地域を拡大し武器を手に入れた。

 その後、イラク西部のアンバール県を中心とするスンニ派「イラクの息子たち」の人々と協力してイラクにとって帰して、失地回復を果そうとした。このスンニ派「イラクの息子たち」は、アルカイダ・イラクのような過激派を地域から追い出した民兵組織で、イラク政府と正式にイラク警察もしくは軍に編入する約束を交わしていた武装組織だ。ところが、イラク政府は約束を反故にしただけでなく、マキリ首相直轄の特殊部隊によって多くの指揮官がつかまり殺されることとなった。スンニ派の部族たちの多くは、米国とイラク政府に裏切られたことで、シーア派政権に怒りを増幅させたのだ。

 イラク政権はこれに対抗しきれず米国に助けを求めた。アサド政府の転覆を企てていた米国は、当初この要請に消極的だった。イスラム国は、反アサド勢力のもっとも有力な集団だからだ。

 しかし、バグダットまで押し寄せる勢いのイスラム国の攻勢を懸念したオバマ大統領は、NATO首脳会談でのスピーチ(2014.9.5)でイスラム国を「弱体化させ、最終的に破壊する」と言う戦略目標を示した。「システマチックに能力を削り、彼ら指導者を一人ずつ消していく」と説明している。米国の対イスラム国戦争参戦により、米国の支援を受けているクルドもイスラム国との戦いを本格化している。

 つまり、イスラム国にしてみれば、周辺諸国に抵抗しなければ、皆殺しにあい総てを奪われる四面楚歌の状況にある。

 イスラム国がアルカイダと決定的に異なるのは、イスラム法の秩序と慣習による実態社会を形成している点だ。彼らは、そこに暮らす人々の生命と社会を守るためにも戦わなくてはならない状況なのだ。

 実際にイスラム国の中心ラッカに滞在した(米国による空爆が開始される前)ジャーナリスト横田徹氏の証言では、イスラム法の秩序のもと、人々はシリアの混乱から守られ平穏に暮らし、女性も子供も、キリスト教者でさえ平等に扱われているという。イラク国の領域に侵入して捕まった外国人も、法廷での裁判により判決を下される。一般人と確認されれば解放され、スパイと判断されれば刑罰を受ける。先に触れた民間有志の湯川氏救出の動きとは、湯川氏の裁判に同席することをイスラム国側から求められたものであり、法廷でスパイではないという証言ができた可能性が高い。しかし、“諸事情”により出廷は実現できなかった。

 イスラム国に潜入して逮捕された外国人は多数いるが、処刑されたのは英国人と米国人だけだ。他の国々はイスラム国と交渉し人質を解放している。英国人と米国人が処刑されたのは、両国がイスラム国との対話を一切拒絶し無差別空爆を加えたためだ。

 追い詰められた戦いの中から、彼らの状況を考えたとき、そして、彼らの社会に勝手に潜入した日本人が逮捕されたのにもかかわらず日本政府がイスラム国との交渉をしてこなかった経緯を踏まえれば、今回の安倍首相の発言「ISILと闘う周辺各国に、総額で2億ドル程度、支援を約束する」「(ヨルダンの)イスラム国との戦いに敬意を表する」と言う発言は、敵意に満ちた宣戦布告と見られてもやむをえない。

 安倍首相は、今回の中東訪問で「中庸が最善」と言う言葉を使い、イスラエルとパレスチナ問題に関しては日本の立場を明確にした。これは正しい。しかし、上記の攻撃的表現はおそらく外務省の作文によるものだろうが、イスラム国に関しては配慮が欠けていた。

 米国は、「グローバル化は、巨大な富の獲得を可能にしている。失敗のリスクが大多数の者に持たされている間に、この富の恩恵が少数の者の手に集約され続ける。この富の不平等な配分は、しばしば紛争の種である“持つ者”と”持たない者“の状態を創出する。グローバル化のテンポの増大に追いつけない国の住民は、苦しむとともに、彼らの不平不満を表現し、世界的な繁栄を人々が共有するという叶えられない望みのため、過激なイデオロギーを信奉する傾向に向かうだろう」(米軍教範)として、グローバル資本主義がテロを産み出すことを予期している。

 つまり、対テロ戦略とは、市場原理に基づいた自由競争を基本とする新世界秩序の結果、必然的に生起する貧窮に苦しむ人々の抵抗を軍事力で撲滅するためのものである。現在のテロリストの多くは、宗教原理によるものではなく貧困と格差に抵抗する者達だ。イスラム国へ世界中の若者が駆けつけるのは、自由競争主義を否定し、富の平等配分原理を掲げるイスラムの教えに賛同しているからだ。

 これまで、国際テロリストのテロ実行時の主要なターゲットは欧米人で、日本人は、一般的にアラブ・イスラム世界では好意的に扱われてきた。それは、日本人の思想は欧米の自由競争主義によるのではなく、伝統的共和共栄に根ざすものだと彼らが認識してきたからだ。

 人質の解放がうまくすすまなかったとしても、日本は、イスラム国に対して先鋭化している英米と同じように対話も拒絶する絶対的敵意を表することは避けるべきで、敵対的憎悪を沈静化し、人類共栄の立場を示すべきである。

 排他的な競争主義は、神武建国の理念「八紘為宇」人類の協和共栄思想に反するものである。利益競争主義に走り、富の争奪戦のため、貧困で苦しむ他国民の財産にまで手を出す強欲同盟の仲間に入って恨みをかうようなことだけは絶対にしてはならない。

 また、日本人としての正義と尊厳を捨て強国におもねり、自らはただただ「戦うこと」から逃げるだけの国家では、生命を賭して理念を貫くため強国にも戦いを挑む人々を批判したところで、何の重みもない。

 今回の安倍首相の発言により、日本が欧米と同じ富の強奪者だと見られたとしたら、それは重要な問題である。そう認識されてしまえば、欧米並みに、自国民であろうと市場の要求する利益に反する抵抗者は実力で排除する国にならなくてはテロとの戦いに参戦はできない。海外での対テロ情報力もない、積極的にテロリストを撲滅する手段もない現状のわが国にはできないことだ。

 また、米国との協調を優先するあまり、そんな国になってまで生き残ることは、決して伝統的文化国家である日本を守ることにはならない。

 今回のイスラム国への対応を考えることは、実は、我々日本人が守ろうとする価値観は何かということに行き着く。終戦後に米国によって作られた現憲法の理念にもとづき米国依存の経済システムを守ろうとする人々と、伝統的文化国家としての日本を守ろうとする人々では、守る対象が全く異なる。日本人は何を守るのか。これこそがわが国の安全保障上、最も重要な選択肢である。(あ)

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