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コラム「大和心」
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 『到知』7月号で、柔道の山下泰裕氏(全日本柔道連盟副会長)と横綱白鵬が対談しているが武道論としても高度な心境が語られている。特にかつて柔道を極めた山下氏から、現役の横綱で、最高位を7年間つとめている白鵬に発せられる問いかけは、核心をついていて興味深い内容となっている。ここには平成22年の名古屋場所でみせた天皇賜杯に対する涙と、名横綱双葉山への敬慕の念が夢にまで現れて、稽古に励む姿を紹介したい。

 「今日は横綱に1つ聞きたいことがある」と意気込んで質問したことは、相撲界も柔道界と同じように、一時期、八百長疑惑や賭博などでガタガタしたこと。その渦中にあってたった一人の横綱として2010(平成22)年の名古屋場所に出場し、全勝優勝したものの、天皇賜杯はもらえなかった。

山下  あの時、横綱は涙を流されましたが、どんな心境だったのですか。
白鵬  いろんなことがあって、名古屋場所を開催するかどうか直前まで決まらず、あまり稽古ができていない状態で初日を迎えました。正直怖かったんです。連勝記録を伸ばしている最中でしたが、こんな心と体が一致しない状態では満足な相撲は取れないから、休場しようかと思いました。
 しかし初日を終え、来てくださったお客さんが、「横綱よかった」「横綱ありがとう」と。それで吹っ切れたというか。
 (略)
山下  いま日本人でも、天皇賜杯をもらえずに涙を流す力士がいるかどうか分かりませんよ。
 あの時の横綱の涙でマスコミを含めたみんなの見方が変わりました。

 白鵬は、この時の涙を、初の著書として出版した『相撲よ!』(角川書店)の序の中で次のように語っている。

 表彰式では、涙が止まらなくなってしまった。
 新弟子時代、気を失うくらい稽古をしても、兄弟子に活を入れられても、涙は人の前で流すものでないと考えていた私からすれば、不覚であった。
 天皇賜杯の授与がないことは事前に知らされ、理解したつもりだったが、実際に賜杯がないことを目で確かめた瞬間、無性にさびしく、悔しく、悲しかったのである。天皇賜杯とは、大相撲が国技であることの証しだからだ。

 山下氏が「もう一つお聞きしたいこと」として切り出したのは、相撲の強さだけでなく、コメントなどで昭和の名横綱の双葉山や「木鶏」の話も出しているが、「横綱のそういう日本人よりも日本的な精神性はどこで培ったのか」との質問。

白鵬  双葉山関は、私が関脇の頃、大阪の好角家の会である「東西会」の会長さんに「おまえさん、双葉山に似ているね」と言われて、会うたびに「双葉山、双葉山」と言われていました。
 最初は気に留めていなかったのですが、地位が上がると求める心が出てくるのでしょう。二〇〇六年に大関に昇進した時、本やDVDをたくさんいただいて、そこまで言うならと思って、取り組みの映像を見てみたんです。
山下  いかがでしたか、ご覧になって?
白鵬  びっくりしました。スッとしていて、今から勝負に挑む人の顔じゃないんです。(略)
 実は私が双葉山関の連勝記録に挑戦している最中、夢を見たんです。現役時代の双葉山関と稽古をしている夢を。
山下  ほう!それは面白い。
白鵬  結構いい勝負をしているんですけど、最後のぶつかり稽古は双葉山関が胸を出しているから、私のほうがまだ少し格下なんでしょうね。(略)
山下  いまのエピソードは白鵬関が心底、双葉山に惚れ込んでいる証拠ですね。
白鵬  はい。しかし不思議なのは、あれだけの大横綱なのに、いままで日本の力士で双葉山関のお話をされている人はいなかったんですよね。なぜなんでしょう。
山下  それは横綱に双葉山関の偉大さをキャッチする心があったからですよ。双葉山関を尊敬する横綱にして初めて六十九連勝を超える資格がある。前回の挑戦は六十三連勝で惜しくも双葉山の記録を更新できませんでしたが、資格は十分あるわけですから、ぜひ頑張っていただきたいですね。
白鵬 ありがとうございます。

 白鵬に反問されての、山下氏の速答は、柔道で頂点を極め同じレベルに達した山下氏ならではのみごとな応答で、即座に記録更新へと激励したのは、指導者としての力量といえるだろう。

 このほかに山下氏が「脊髄に火がついた感動が走ったら、人生、変わるんです」と語ったことで、すかさず白鵬がああ、モンゴル語にも、「脊髄の力」っていう言葉があります。「ゴルビャル」と言います。といった部分などは興味深い点だが、紙幅の関係で、以上をもって筆を擱く。(い)

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