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コラム「大和心」

 ある武道雑誌から、武道の呼吸法についての取材がきた。普段稽古の中で『呼吸』の語を連発して教えているのだから断るわけにいかず受けることにした。言葉で表現するのは容易でないが、この機会に、神道でいう息吹(いぶき=呼吸、伊吹、息吹)と武道の呼吸を考えてみたいと思ったからでもある。

 武道で神道にふれると教える側、教えられる側両方に共通した知識が欠けるので、訳がわからないことになる。だから神道を難しく捉えないで、近くの神社ならすぐに耳にするお祓(はら)いの言葉から、日本人の自然観を見て、人間の呼吸と大自然(宇宙まで広げてもよい)の循環を考えてみる。今なら地球の生態系とか気候変動、自然環境問題で、呼吸している、息をしている、生きていることが関連していることを理解することは難しくはない。

 神社の神主さんが、神様の前で唱える大祓詞(おおはらえことば)は、平安初期から伝えられているもので、その中に四柱の祓いの神様が出てくる。

@速川(はやかわ)の瀬に坐(ま)す瀬織津比刀iせおりつひめ)
A荒塩の塩の八百道(やおじ)の八塩道(やしおじ)の塩の八百会(やおあい)に坐す速開津比刀iはやあきつひめ)
B息吹戸(いぶきど)に坐す息吹戸主(いぶきどぬし)
そして、
C根国底国(ねのくにそこのくに)に坐す速佐須良比刀iはやさすらひめ)
という名で、なぜか皆女神であらわされていて、地球の生態系の循環が示されていることは想像がつく。戦前、著名な神道学者は、この四柱の神さまを次のように解説している。

  宇宙の大掃除を人格的作業と見たのが、この四柱の神の働きで、この瀬織津比唐ヘ川の方から段々大海原の方へ罪穢(つみけがれ)を持ち運ばれるさまを云う。「荒塩」はまだ焼かない塩で、唯の海の水であるがやはり祓いの具で、「塩の八百(やお)道(じ)」は、陸のみならず海の流れにも自から諸方へ流れる水路があって、それを「八塩道」という。沢山の方向から流れ合って来て、渦を巻く所を「八百会」といい、そこに坐すのが「速開津比盗_」。
  瀬織津比盗_が瀬の如く綾を織り出して、織り送るのであるが、その流して来るのを、前を開き後ろも開きつつ罪や穢の通路を便利にして、すっかり受け込む。
  「気吹]は、人間の息を云うのであるから、風で、かように瀬の如く織り出だし織り送り、前に道を開き後ろに境を開くには、呼吸が堅固にして強烈でなければ出来ない。その呼吸の堅固にして、汚穢と罪尤(つみとが)とを吹き出すことの堅固なる神を気吹戸に坐す「息吹戸主神」と申し、強力な風を以て、根国底国に吹き払って了う。根国と底国とは同じ所を云い、息吹戸主神が吹き払い給う汚穢と罪尤とを、一定の場所に失い去る神を「速佐須良比盗_」という。「佐須良比(さすらい)」は流離という意味で、何所ともなく放ち遣って、無くして了う意味であると説明しています。
  さらに、この四柱の神さまの御働きについては、我々の体の中にも四柱の神さまの御働きをあらわしていると強調して禊祓(みそぎはらひ)に言及しているのは、興味深いところです。禊祓は今は一般にあまりおこなわれていませんが、古武道はこの禊祓の行が不可欠であったといわれており、ミソギで心身を清め武力を練って一体となったところに日本武道の特徴があったことが察せられます。
  禊祓は宇宙万有がこれを実行している所の宇宙の浄化法で、四柱の神がお互いの身体にあるというのは、一口に云えば呼吸法です。伊吹はまた伊吸でもあり、伊吹伊吸は呼吸法です。伊吹伊吸の神儀においては、鼻より静に息を吸い込み、神経系統に全身の力を入れれば、神経が鼓動する。それを瀬織津比唐ニ云い、腹の中に息を吸い込んで、堪えらるる限り堪える処を、速開津比唐ニ云う。そうして此の法は、息を口より表に吹き出す。単に口より吹き出すばかりでなく、同時に全身の神経よりも吹き出す。これを気吹戸主神とも申します。その吹き出した息が発散して開くのを、速佐須良比盗_と云う。
(『今泉定助全集』大祓講義より)

と分かりやすく解説している。禊祓の行と深く結びついた武道の呼吸法は、人の身体から、相手の浄化、地域の環境からさらには国土全体、地球までの罪穢を祓う宇宙万有の浄化法ということにつながってくる。

 これほどまでに広くとらえた武道の呼吸観は資料の上では見ることは出来ないが、禊祓と一体となった武道の“教祖”といわれる人々の教説にはよくみられる表現だ。大祓詞の呼吸を学び、武道の修養を工夫すれば、少なくとも敵の攻撃のみならず、道場内をおおう猛暑を祓う素晴しい稽古が出来るだろう。(い)

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