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コラム「大和心」


神話からみる武道観

 メジャーリーグマリナーズのイチロー選手が、9月17日、151試合目で8年連続の200本安打を達成した。実に107年ぶりのタイ記録だという。

 彼は、タイムマシンなのだと思う。(略)イチローが作り続ける記録は一世紀単位の記録。それは彼が100年に1人の逸材であることを意味する。

と、朝日の編集子が書いていた。同じく天才ピッチャーと期待されて活躍するレッドソックスの松坂選手は、

 当たり前に思われている中でその数字をクリアするのは大変なこと。苦しみもあったと思うけど、それを見せずにプレーしている本当のプロ

 と賞賛している(産経)のは実感がこもっていてうなずける。
 この見方からすれば、3〜400年さかのぼっての剣豪たち、一例をあげれば宮本武蔵の再来と考えてもいい。ただ殺人刀の達人と、現代野球のバットの天才とは生死を賭する精神性は大きく異なるかもしれない。

 しかし時代状況が変われば、人間の精神姿勢も大きく変わる。道具に神聖を感じ、術を磨きながら精神性が高められていくという日本人の気質を考えれば、共通性もあると考えてよいだろう。

 「(記録)達成の瞬間、グッとくるものは」との質問に、「いや、それがないのが僕。それがあると多分8年続けてやっていけないでしょう」と答えている。鍛錬を積み重ねて、苦しみを乗り越えてきた人間だからこそ言える言葉だ。

今年はなんとしても200本をはずせない年だった。めちゃくちゃしんどかった。安打を欲しいという気持ちが邪魔をする。できないかもしれない、という恐怖があった
マイナスの空気が皮膚から入ってくる。それを避けるために、僕の世界を作り上げたい


と本音を出している。「安打が欲しい」とか、「できない恐怖」、そして「マイナスの空気(萎縮の気持ち)が皮膚から入る」などと自らの弱さを出しているのは、記録を達成しえた、自信の表れともいえる。

自分にコントロールできることと、コントロールできないことを分ける。コントロールできないことに関心を持たない。そしてできるだけの準備をする

 これらがイチローの言葉をとらえた新聞記者の記事だ。達人の域とはいえ、34歳のイチローの言葉を、30に満たないと思われる記者がとらえた言葉であるから、味わいがあり、深みがある表現とはいえないが、一生を野球に打ち込んでいる「本当のプロ」の強さは感じられる。

 これらの言葉と、実戦剣術の「本当のプロ」ともいってもいい武蔵が57歳の時に書いた兵法三十五箇条の「いはをの身と云事」と照らしてみると面白い。

 岩尾の身と云は、うごく事なくして、つよく大なる心なり。身におのづから万理を得て、つきせぬ処なれば、生有るものは、皆よくる心有る也。無心の草木迄も、根ざしがたし。ふる雨、吹く風もおなじこころなれば、此身能能吟味あるべし


 記者の書くイチローの粗野で直観的な言葉に比較すれば、武蔵の言葉は、重厚さがあって文学性もある。しかし人間の慾念、恐怖、皮膚感覚という面からみれば、表現の巧拙はあるものの大事を前にして動揺しない心境を求める精神性に変わりはしない。

 ただそれを避けるために「僕の世界を作り上げた」という言葉が、もし自分を閉ざす壁を作るというなら注意を要する。「身におのづから万理を得る」という開かれた武蔵の心域の開拓であってほしい。

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