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コラム「大和心」


神話からみる武道観

 今夏ノルウェーとギリシャでの1週間ずつの武道研修を終えた。日本を含む9カ国、140人の参加者はそれぞれいかなる成果を得ただろうか。指導を終っての実感は、グローバル化の中での武道鍛錬のあるべき指針がより明らかになったように思う。

 それは神道観にもとづく武道修養論である。

 会場は大小の体育館であるが、神籬(ひもろぎ)を立て、神前を設けて、稽古の前後に清掃。講義実修は、日本神話にさかのぼり、神道的霊魂観にもとづき心身の修練を行ったが、産土神(うぶすなのかみ)を根底とするむすびの思想は、マーシャル・アートにありがちな対立に走ることなく、人と人との結びつきを深め、かつ地球規模の自然破壊下のスピリチャルな要望にも応えうる内容になったと思う。

ノルウェーで開講の神事

 オスロ郊外、冬季オリンピックの会場ともなったホルメン・コーレンの跳躍台からみるオスロ周辺の景観は素晴らしいものだ。そしてアテネ中心、高台に位置するパルテノン神殿跡の重厚さとそこからの眺望もきわめて印象的だ。8000人の市民が住んでいたという古代アテネの旧市街を中心に現在300万の人口を擁する市街が展望できる。しかしそれだけの印象記では、単なる観光気分の域を出ない。日本武道の国際研修という視点からは、さらに文化的に深めたアプローチが必要だ。

 そこで今回は、神話の世界にまで視野を広げて、武道修練の意義を考えてみた。その中で、最も興味のあったことを記してみたい。

 日本の武道の淵源は、神代のスサノオノミコトの八俣大蛇(ヤマタノオロチ)退治と天叢剣(アメノムラクモノツルギ)。そしてイザナギノミコトの禊祓(ミソギハラヒ)、さらにはむすびの神々の霊妙なる威力にまでさかのぼって考えてみることができる。

 ギリシャ神話には、イザナギノミコトとイザナミノミコトの黄泉の国の神話と同じような話がある。ギリシャ神話の最高神ゼウスの神と愛人ムネモリシュネの間に生まれた9人の姉妹がいる。その長女カリオペと、トラキアの王で人間のオイアグロスの間に生まれた人間が、一番最初に詩人となる音楽の天才オルペウス。この半神半人のオルペウスと妻エウリュデイケの話である。

 結婚してまだ間がないうちに最愛の妻を失ったオルペウスは、死者の国までも会いに行き、妻を地上に連れて帰ることを悲しみの歌で訴えた。心を動かされた死者の国の王と女王は、一つの条件を出す。地上に帰り着くまで妻の前を歩き続け、その間決して振り返って背後にいる妻を見てはならないと約束させる。だがオルペウスは、死者の国を歩くうちに不安に駆られ振り返って、約束を破ってしまい、永遠の別離となる。

 ここまでは日本の神話と同じようなストーリーであるが、このあとイザナギノミコトは、穢(きたな)き国に行ったので、わが身の祓いをしようと、阿波岐原(アハギハラ)という地で禊祓をする。すると穢き繁国(しげくに)にいったときの汚垢(けがれ)によってなった神、次にその禍(まが)を直さんとしてなった神が次々に出てきて……、ついに左の目を洗うと天照大御神、右の目から月読命(ツクヨミノミコト)、鼻から建速須佐之男命(タケハヤスサノヲノミコト=『古事記』)が生まれてきたので、イザナギノミコトは、生みのはてに三貴子を得たといって、たいへん喜んだという。

 つまり穢れをはらおうと禊ぎすると、まず穢れによる神、次に禍(まが)を直そうとする神があらわれて、そして至高至貴の三貴子が誕生するという話である。

 こうした経緯をたどって天照大御神を皇祖とする万世一系の皇室の歴史が始まり現在に至るわけであるが、こうした連続性にこそ日本民族の正統的心性が生まれ、武道、武士道に言う「正義」の考え方がうまれてくるといえる。それほどに民族の歴史の分岐点ともいえる深淵なる要素が含まれている。
高千穂峡を彷彿させるギリシャの渓谷

 オルペウスの方は、私が愛する女性は生涯でたった一人として他の女たちに目もくれない。しかしオルペウスの美貌と歌声は、トラキアの女たちを夢中にさせる。だがオルペウスはいつまでも頑なに彼女たちを無視し続けるため、しまいには激しい憎悪へと変化してしまい、大勢の女たちがオルペウスに襲いかかり、彼を殺し、死骸を八つ裂きにしたという。


 一つの例で全体を語ることはできないが、日本の黄泉の国とギリシャの死の国の同じような神話を持っていても、その後の展開は大きく違っていく。古代の人々が何を大事として語り伝え、選択し、どう実践してきたかによってその民族の歴史は質的にも大きく変わっていくように思う。武道の修練による心性は皇室の連続性の歴史から生まれ出ていることを実感しえた2つの研修旅行であった。

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