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コラム「大和心」


暴力に抗する宗教的威厳

 3月10日、中国チベット自治区の首都ラサで騒乱が起り多数の犠牲が出た(「130人の死亡を確認」とチベット亡命政府は発表)。その波紋はチベット人が居住する周辺の四川省、青海省、甘粛省等にも拡大、すでに軍や武装警察部隊が出動して、“暴徒”を鎮圧したものの厳戒態勢がとられて緊迫した状態にあると報じられている。詳細は情報統制されていて不明だが、チベット問題をめぐる歴史経過から考えれば、中国政府による自治を強く求めるチベット人に対する抑圧、(反乱、)鎮圧の一端がこの時期に噴出したのは確かでその動向が注目される。

 これを機に、中国政府に対するチベット人の人権抑圧に抗議する動きが世界各地で拡がり、北京五輪への不参加運動の声も出始めており、解決にむけて各国首脳やローマ法皇などによって、チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世と中国政府国家主席の胡錦濤氏との直接対話を呼びかける声があがっている。

 チベット仏教(ラマ教)は、二千年以上の歴史を有し、17世紀ダライ・ラマが宗教、政治の頂点としてチベット地域を統治し始めてからでも14代となる。現在のダライ・ラマ14世は、1940年に即位、59年にチベット動乱でインドに亡命して以来49年となる。この間、チベット人の犠牲者は120万以上といわれているが、そのつど世界に向って平和的なチベットの自治を訴え続けており、460万人のチベット人(チベット自治区の人口は210万人で、残り250万人は周辺の自治州、県に分布)に絶大な影響をもっていて、宗教的カリスマ性は量り難いものがあるとされている。

 これに対して、13億の人口を有するといわれ、政治、軍事そして経済でも大国となった中国政府のトップの国家主席(総書記)との直接会談が実現した場合、果してチベット人の独立、自治と人権問題についてどのような話し合いがおこなわれるであろうか。

 国家のもつ政治、軍事、経済力から比較すれば、中国とチベットでは、比較にならないほどの差がある。だがそうした力を取り除いて、人間性をもって両者が対決した場合いかなる差違が生じるであろうか。ダライ・ラマ14世の宗教的威厳は、中共政府の政治指導者・胡錦濤を圧するのではないか。その時、世界の人々の支持はどちらに集まるであろうか―。

 そこに、中国政府が直接対話をさけて、ダライ・ラマ14世およびチベット支持の人々が、対話を強く求める理由があろう。

 ダライ・ラマ14世のアジア・太平洋地区担当の初代代表であったペマ・ギャルポ桐蔭横浜大学教授は、騒乱が起った3月10日は、1959年、チベットに動乱が起きて、ダライ・ラマ14世がインドに亡命した記念日であることを指摘。今回の騒乱は中国当局側の挑発行為で、そもそもは、(1)昨年逮捕されたチベット人の釈放、(2)北京五輪のため中国政府がチベットを「政治利用」し、聖火リレーがチョモランマ(英語名エベレスト)を通過するのはチベットが中国の一部であることを誇示するため、(3)ラサまでのびる青蔵鉄道の開通によりチベットへの「経済的侵略」が明確になってきたことに対する平和的なデモであったと指摘している(3/22『産経』)のは、うなずける理由だ。

 ただ次に「中国政府は五輪開催が近づいてから問題が起きるより、3月10日のタイミングを使って、捕まえるべき人を捕まえようとしたのではないか。そのために、平和的なデモに対して挑発的な行為に出て、騒乱を引き起こしたと考える」と述べているが、なお複雑な事情があるようにも思う。
 
 騒乱のあとの記者会見で、穏健派で非暴力、平和的な話し合いを求めていたダライ・ラマ14世が「チベットで暴力が続くなら退位する」と厳しい口調で述べた上で、「非暴力を貫く。中国に対話を通じた解決を呼びかける」と訴えたのは何を意味するのであろうか。

 ダライ・ラマ14世の穏健路線に反発し、中国からの独立志向の強い急進派の行動を、退位をかかげて押さえ込もうとしたのではなかったか。

 それを踏まえて「いつでも中国政府指導部、特に胡錦濤国家主席と会う用意がある」と積極的に対話を促した(3/18『産経』)。次いで「私はいつも五輪が中国で開かれるべきだと言っている」(3/23同)と述べる一方、五輪を機に中国に人権状況改善への圧力を強めるよう、国際社会に訴えるという妥協と強行両面の発言をしていて、単純ではない。

 前述のペマ・ギャルポ氏も、「ダライ・ラマ14世が重視する対話などの穏健路線に不満を持っている人がいるのは事実だ。しかし、最終的にはダライ・ラマに逆らうわけにはいかない。ダライ・ラマの権威は、いまだに健在といえる」と強調しながら、「中国政府は一日も早くダライ・ラマと真剣に対話すべきだ」と促したのは、チベット急進派と北京政府へのメッセージであろう。そして、その相手として「中国側との話し合いがうまくいっていないのは、中国指導部のなかに完全に強い人がいないためだ」として、「胡錦濤総書記(国家主席)は昨年秋の中国共産党大会で二期目を迎えたが、彼が力を持てば、チベット情勢は変わるかもしれない」と期待を述べている。

 果たして、二者の会談が実現するか否か。今のところ(3月25日現在)中国側にその動きはみられない。

 大国の軍事的暴力に蹂躙されて、少数民族の伝統ある固有の文化が、年々に危機に瀕して熾烈な防衛戦がくりひろげられている。その力の源を知って、民族の悲願を思うことも、武道の大切な修養であろう。

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