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コラム「大和心」

 


 
 5月27日は、103年前の日露大海戦で日本がロシアのバルチック艦隊を破り勝利した記念すべき日。

 昨年の本コラムでは、大日本帝国海軍の連合艦隊の東郷平八郎司令長官のもとで作戦主任参謀をつとめた秋山真之(さねゆき)中佐(のちの中将)の武道のからだづくりの基礎ともいえる褌(ふんどし)論をとりあげ、「近時の青年諸君」が「褌の大効用」を知らないので「腹に力が入らず血が頭脳にのみ逆上する為め咄嗟(とっさ)危急の場合に処して肝要なる虚心平気の態度を失い従って出るべき智能も技倆(ぎりょう)も出し得」ないことを指摘した。

 今回は、さらに一段すすんで知の修練の基礎ともいえる心得を紹介したい。

 秋山は、明治元年(1868)伊予松山の生まれで、兄の好古(よしふる)が陸軍の騎馬隊を創設したのにならい、海の守りを志し海軍兵学校に入った。

 27年の日清戦争には少尉で従軍、30年(1897)に大尉となって米国に留学。シーパワー、海軍戦略の権威、アルフレッド・マハンを研究、米西戦争でのアメリカ海軍のキューバ港閉鎖作戦を実地見聞するなど、大日本帝国海軍の作戦戦略を構想した。この米国滞在中に軍人としての心がけを書き付けていたのが『天剣漫録』で、知力養成法というべきもの。

 その中には、「元亀天正(戦国記)の小天地は目下世界の全面なり」との情勢認識から「吾国海軍も幕内に入れり、精励息まざれば大関にも横綱にもなるならん」との自覚と共に「勉強せざれば又三段目に下がらざるべからず」との警(いまし)めの言葉がある。これらから察すれば、軍事大国ロシアとの対決は覚悟の上、新興の海軍大国アメリカという大関、横綱級ともぶつからざるを得ないと仮想していたように見える。

 百余年後の今日において、東アジアの政治情勢はどうであろうか――。地政学的にこの東アジアの大動乱を予見する見方も出ている。

 つまりユーラシア大陸において、中国、ロシアという軍事大国が出現すると、その力が東ヨーロッパ、中近東、そしてアジアへと拡張し、弱い地域へと浸透していく。ならず者国家、北朝鮮は世界の中の最も危険なる火薬庫といわれる所以であるが、暴発、崩壊するにせよ韓半島の動乱は、「平和国家」日本にも、もろに影響してくることは長い歴史に照らしても明らかであろう。

 日本人は、目先の混乱、短期的経済国益にとらわれることなく、中長期的国際展望を持ち、自主独立した国家戦略を構想すべき時なのである。秋山の天剣漫録は一剣を磨いて「神剣」に近づくごとくに、志高き「天剣」習得を目指す、知将の修養の心得として有益なる教えである。

 30項目と多いし、「世界を統一するものは大日本帝国なり」と今の世の実力とはほど遠い感もするが、明治新興の気概に触れて鼓舞される面も強いと思うので、省略せずに全文引用したい。

 最後は「吾人は緊褌(きんこん)一番せざるべからず」であるが、昨年の褌論といっしょに味読すれば、さらに日本人としての腹ができてくるだろう。

 
『天剣漫録』

 一  細心焦慮は計画の要能にして虚心平気は実施の原力也


 二  敗けぬ気と油断せざる心ある人は無識なりとも用兵家たるを得

 三  大抵の人は妻子を持つと共に片足を棺桶に衝込(つっこ)みて半死し進取の気象衰え
     退歩を始む


 四  金の経済を知る人は多し時の経済を知る人は稀(まれ)なり

 五  手は上手なりとも力足らぬときは敗る戦術巧妙なりとも兵力少ければ勝つ能わず

 六  一身一家一郷を愛するものは悟道足らず世界宇宙を愛するものは悟道過ぎたり軍人
     は満腔の愛情を君国に捧げ上下過不及なきを要す

 七  本年の海軍年鑑を見るに吾国海軍も幕内に入れり精励息まざれば大関にも横綱にも
     なるならん勉強せざれば又三段目に下がらざるべからず

 八  「ネルソン」は戦術よりも愛国心に富みたるを知るべし

 九  人生の万事虚々実々臨機応変たるを要す虚実機変に適当して始めて其事成る

 十  吾人の一生は帝国の一生に比すれば万分の一にも足らずと雖吾人一生の安を偸
     (ぬす)めば帝国の一生危し


十一  成敗は天に在りと雖人事を尽くさずして天、天と云うこと勿れ

十二  敗くるも目的を達することあり勝つも目的を達せざることあり真正の勝利は目的の
     達不達に存す

十三  平時常に智を磨きて天蔵を発(ひら)き置くにあらざれば事に臨みて成敗を天に委
     (まか)せざるべからず

十四  苦きときの神頼みは元来無理なる注文なり

十五  教官の善悪書籍の良否等を口にする者は到底啓発の見込無し

十六  自啓自発せざるものは教えたりとも実施すること能わず

十七  岡目(傍目)は八目の強味あり責任を持つと大抵の人は八目の弱味を生ず宜(よろ
      し)く責任の有無に拘(かか)わらず岡目なるを要す

十八  虚心平気ならんと欲せば静界動界に修練工夫して人欲の心雲を払い無我の妙域に
     達せざるべからず兵術の研究は心気鍛錬に伴うを要す

十九  天上天下唯我独尊は軍人の心剣なり

二十  進級速かなれば速かなる程吾人は早足にて勉強せざるべからず何となれば一定の
     距離を行くに少き時間を与えられたればなり

二十一 吾人の今後三十年其の内十五年は寝て暮らすと思えば何事を為す遑(いとま)もな
      し

二十二 治に居て乱を忘るべからず天下将(まさ)に乱れんとすと覚悟せよ

二十三 世界の地図を眺めて日本の小なるを知れ

二十四 世界を統一するものは大日本帝国なり

二十五 家康は三河武士の赤誠と忠勤に依りて天下を得たり小大此理を服膺(ふくよう)す
      べし

二十六 元亀天正の小天地は目下世界の全面なり

二十七 人智の発達と機械の進歩は江戸長崎の行軍時間を東京倫敦(ロンドン)の行軍時
      間と同一にしたることを忘るべからず

二十八 三月になると早や冬の寒さを忘れて陽気に浮かるる様の事にては次の冬の防寒は
      覚束(おぼつか)なし

二十九 咽下(のどもと)過ぐれば熱さを忘るるは凡俗の劣情なり

三十   観じ来れば吾人は緊褌一番せざるべからず

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