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コラム「大和心」

 


 昨年暮れに封切られたアメリカ映画『硫黄島からの手紙』(クリント・イーストウッド監督)がわが民族の心をとらえ、静かなブームを起こしている。上映映画館が盛況で、書店でも関連の書籍コーナーが設けられて、なお関心の広がりを見せている。日米双方で2万7千人という戦死者を出した凄惨なる戦争映画が、なぜ今、関心を呼ぶのだろうか――。

 ストーリーは、昭和20年(1945)2月から3月、日本側に制空制海権がなくなり米軍の戦略爆撃機B-29が大規模な本土空襲を繰り返し、夥しい一般市民の犠牲者が出始めた頃である。日米双方の戦略的要衝地の小笠原諸島の硫黄島での日本軍(2万3千人のうち数百人の投降者をのぞき全滅)の戦闘を、栗林忠道中将の戦闘指揮ぶりと家族への手紙にあらわされた細やかな心遣いを対比しながら、いわば日本軍人を主体に描いたもの。

 これに対してアメリカ軍人を主体に描いたものが前作『父親たちの星条旗』で、同じ監督の手で二部作として作られた。『星条旗』は、硫黄島の摺鉢山を占拠した時、たまたま星条旗を打ち立て、写真に撮られた兵士たちが、厭戦気分が出始めた米軍と戦費の不足に悩む政府によって英雄に祀りあげられて大衆に国債を買うことを求めて全国を飛び回った。生き残った自分たちよりも死んだ兵士にこそ真の英雄がいると良心の呵責に苦しむとのストーリー。

 こちらの作品の方は関心が薄いようだが、本土決戦へと追い込まれて行く日本の対極としての超大国アメリカの国柄、政治と世論、軍人の良心などを理解する上では、鑑賞に値する映画である。二作品をみた上で、さらに公平なる目で両者の関係資料にあたれば、日本人としての正しい日米戦争史観ができてくるだろう。

 死して六十有余年後の今日、一躍脚光を帯びている栗林中将は、この硫黄島でアメリカ側に2万3千人の死傷者(5千5百人の戦死者)という太平洋地域の戦闘で最も多くの犠牲を出させた敵ながらみごとな将軍として、アメリカ軍人筋には評価の高い人である。

 その役を、3年前にヒットした『ラスト・サムライ』の古武士役の俳優、渡辺謙が演じたことで、映画ファンのみならず、武士道ものに憧れをいだく人々に期待され、それにこたえる作品となって公開され、反響を呼んだ。ただその関心の持たれ方、国民意識には、日米の間では、今の国際情勢のかかわり方によって、違いが出ているようだ。

 それは国民の関心の高低を示すバロメーター、日米の映画の興行収入や公開館数の数字にも読み取れる。

 米国での『硫黄島』の興行収入は約280万ドル(約3億4000万円)に対して、日本でのこれまでの収入は13倍の46億円という際立った差がでているという。その原因について、ある米人記者は、「『星条旗』より『硫黄島』の方が、米国人が知らない事実が多く新鮮だった」とした上で、両作品について「イラク戦争にうんざりし、わざわざ映画で戦争を見たくない人が多いのでは」と指摘している。

 一方、ロスアンゼルスの映画批評家協会の会長が、イラク戦争の現状を重ねるからこそ困難な状況でベストを尽くした登場人物に感情移入し、興味深く見られると高く評価している(読売1/26)のは、現代の日本人の国民意識をはかる上でも興味深いものがある。

 ウソに発し、大義の見えないイラク戦争でのアメリカ軍人の犠牲は、戦争継続への厭戦気分と、忌避意識を深くしているが、それに比べて日本人の意識は低い。ただアメリカの中東での挫折、自信の喪失は、同盟関係に頼る日本にも大きく影響してくる不安があって注目はしている。

 一方、北朝鮮の拉致や核ミサイル問題にはアメリカ人の方は意識が低く、当然、当事国としての日本人の危機意識は高くなっている。そこには、これまで考えることさえ忌避してきた「核」とか「戦争」について、国民が現実を直視し、その方策を考えようとの意識が生まれてきたと言えるのではないか。

 必敗必死という戦闘を前に、「予は常に諸子の先頭にあり」と、師団長自ら最後の総攻撃に打って出て散って行った栗林中将の鬼神をも哭(な)かしむる戦闘精神に、現代のわが日本人は何を学ばんとするのであろうか。

 20年3月16日(26日絶命)大本営に宛てて訣別電報を発したとき、最後に記された辞世(冒頭も)。

 

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